大学の入学式、僕はこぶしを握りしめていた



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こんにちは、生かし屋(@sakihirocl)です。


春。出会いの季節。新生活。なんで今頃そんな話をするかといいますと、長らく眠っていた下書きを発掘したからです。もう4年前の春のことになりますが、僕は大学の入学式に出席していました。新しい環境に胸をときめかしながら、どきどきの初登校です。その時僕は、こぶしを握りしめていました


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大学へは、知的好奇心を満たすために進学しました。4月に入ってすぐ、入学式。はじめての一人暮らし。拠点となる学生マンションから徒歩数分の大学へ、人生初のスーツに身を包みながら、一歩一歩と大学に近づくにつれて、緊張と高揚感で胸の中にぎゅ~と収縮するような、重力をもって浮遊している物体Xがどんどん膨らんで、胸を突き破って出てきそうでした。少しきつめの傾斜を登り、正門を跨ぐと人、また人、また人。高校までは考えられなかった、全校生徒数千人~数万人。見渡すと一発で分かる新入生。みんなにも見て取れる緊張と高揚。対象的に、新入生獲得に目をらんらんと光らせているサークル諸君。入学式の会場への道のりに大学の敷地の広さを感じながら、革靴に履かれた足をぎこちなく運びます。


さて場面は入学式。学長の言葉。先輩の言葉を耳に、僕はこぶしを握りしめていました



モラトリアム。マージナルマン。この大学の4年間をどう過ごすのか。大学は遊びに行く場所だ、と良く言われる。思う存分、全身全霊で遊べるのはこの4年間が最後だろうか。社会的な意義は得られずとも、思いっきり遊んだ思い出は一生モノだろう。仲間も出来るだろう。青臭い恋もするだろう。失恋もするだろう。真面目に勉強だけするよりも、高いお金を払ってもらってまでも、人生にとっては有意義だ。でも、遊んでるだけじゃいけない。学ぶために進学したのだ。環境も整っている。この世にはまだ自分の知らないことがたくさんある。どれだけ学ぼうと、学んだことが更なる疑問を生み、可視化された世界全体からすると知っていることの割合は減っていく。でも学ぶのだ。未知が増えるのは、可能性が増えることだ。世界を広げるのだ。うん、自由だ。どう過ごそうと自由だ。自由だからこそ、よく考えなければならない。何者にもなれるけれど、なろうとしなければ何者にもなれないのだ。よく遊び、よく学ぶ。これを軸にして、具体的に行動していかなければならない。心持ち次第だ。希望しかないじゃないか。志さえあれば。



こんな熱い思いは、一切握っていませんでした。僕が握りしめていたのは、ガムでした。


ええ。ガムです。G・U・M。はいリピートアフターミー。ガム。ちゅーいんがむ。ロッテのキシリトール、ライムミントです。緑のやつね。それもファミリーボトルのでかいやつ。600円だか800円だかするやつ。あ、ローソンのポイントでもらったから無料なんだけどね。ああ、なぜ僕がガムを握りしめてたかって、キャサリン?説明しよう、入学式の会場を向かう途中まで戻ろう。


大学の入学式とはいえ、親の席も用意されていましたので、母親が隣りにいました。父親と妹も来ていたのですが、拠点で待機です。会場へ向かう途中、母親が「ガム噛む?」と差し出したガムを、僕はまんまと口の中に放り込んだのです。まだ入学式までは30分ほどありましたし、直前に出せばいいやと。そのまま時は過ぎて入学式5分前。新入生は整列し、入場まで待機です。ここまで25分もガムを噛んでいれば、もはやガムを噛んでいるという意識はありません。で、春の陽気。花粉。花粉症真っ盛りな僕は、鼻がむずむずしていました。そして当然の如くでるくしゃみ。もちろん手で口を抑えますとも。エチケットですからね。くしゃみを終えて、自分の手を見てみると、あらら付いてる付いてる。ガムが手にべっとりと



「あ、やっべ・・。」


そう思ったのも束の間、新入生入場のアナウンスが響き渡りました。解決を試みる暇もなく、もう入場しなければなりません。しかし、悟られてはいけません。とりあえず、僕はこぶしを握りしめました。パイプ椅子に座り、手の感触を確かめると、直感でわかりました。僕の手に握られているのはガムの形をした絶望だと。幸いカバンの中にはティッシュが入っていましたので、カバンの中を探るふりをして、皆の死角で手術を試みました。しばらくして、脳内に流れる僕こと伝説の名医による「手は尽くしましたが・・・。」の声と、僕こと愛する恋人を失った32歳OLの嗚咽、ピーっと響く僕こと心電図のフラット音(それもお前なの?)。大手術も虚しく、僕の手にはガムと、ティッシュのクズ。状況は悪化の一途です。


こうなればもう、このままやり過ごすしかありません。なにせガムですよ。入学式なのに。こんなところを同級生に見られでもしたら、入学早々ニックネームは「ガム」ですよ。これから卒業まで、「おいガム!焼きそばパン買ってこいよ!あとガムもな!」とパシられ、ガム愛好サークルに入ることを余儀なくされ、授業では月曜日の1限目から「ガム学」を専攻し、ロッテに就職することになるんだ(それはいいじゃん)。だから、この状況は誰にも、絶対に見られてはいけませっって隣の人めっちゃ僕の手ミテル-。


もう終わりですよ。ガムに支配された4年間を過ごすことになるんだ・・・。壇上では学長がなんかしゃべってっけど、なんも入ってこねー。そのまま僕は1時間以上の入学式の間、ずっとガム(あとティッシュのクズね)を握りしめていました。やっと入学式がおわり、家に帰り、無事ガム(あとティッシュのクズね)を水で洗い落とし、無事一日を終えました。そんな大学生活のはじまりの一幕でございました。


その後僕は半年で大学に行かなくなり、1年の終わりで大学を辞めて(正確には1年休学した後、退学)東京に出てくるのですが、それはまた別の話。ガムとは関係のない話でございます。関係・・・ないよね?


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