ちょくちょく飲食店周りの仕事をする機会があるのですが、いくつかのお店で共通の問題点が気になったため、アルバイトと人件費について少し記そうと思います。
飲食店に限った話ではないですが、99パーセントの飲食店はアルバイト・人件費・人手不足・人間関係などと、雇用に関してなんらかの問題を抱えています。なかでも今回取り上げるのは、「バイトと社員に距離がある。なんらかの不信感があり、なかなか定着しない。全体の士気が低い。」という悩みを抱えているお店。特別な知識やノウハウは必要なく、第3者から見れば問題点は一目瞭然なのですが、経営者や店長など当事者はそれが当たり前だと思っているのでなかなか気が付かないものです。
その問題点は、「人件費を理由にアルバイトの休憩時間を増やしたり、早上がりを強制していた」ことでした。
飲食店の利益に関わる主な要因として、仕入れ・土地代・人件費・売上などが挙げられます。そして多くの飲食店が赤字に悩み、改善点を模索してます。際して最も愚策と言えるのが、真っ先に人件費を削減することです。
回転や売上を伸ばす方向に尽力せず、目に見えやすい原価率や人件費を減らすほうに舵をとってしまうと、ずるずると悪い方に向かいます。黒字企業の原価率は高い傾向にありますし、人件費の削減は熟慮しないと、従業員のモチベーションに影響します。
本文ではとりわけ人件費、アルバイトの休憩時間を増やしたり、早上がりを強制すべきではない理由を、既知ではありますが記していきます。
休憩時間を増やすと、実質的に時給が下がる
「暇だから〇〇さん、余分に休憩に入って。」
「ちょっと人多いから、30分で休憩まわしましょう。」
「今回休憩2時間入ってくれる?」
想定よりお客さんが入らなかったりして暇だと、こんな文句でアルバイトに対して、法定の休憩時間よりも長い休憩を促したり、休憩回数を増やす場面が、一部のお店では見られます。残念ながら、労働基準法にはこれを取り締まる記述はありません。最長限度も、分割を禁止する規定もありません。
e-Govサイトのhttpによる通信終了について|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
しかし法的に問題がないからといって、これをやってしまうと、従業員のモチベーションに著しく影響します。なぜなら、拘束時間は変わらずに賃金が発生する労働時間が減るのは、時給が下がることと同義だからです。自明ですが、きりの良い数字で例を出してみましょう。
- 時給:1000円
- 実働10時間+休憩1時間/拘束11時間
- 日給:10000円
これを上記の「今回休憩2時間入ってくれる?」に当てはめてみましょう。
- 時給:1000円
- 実働9時間+休憩2時間/拘束11時間
- 日給:9000円
本来は休憩1時間で実働10時間で日給10000円が発生するはずですが、拘束時間は変わらずに日給が9000円に留まってしまいます。たしかに働いた分だけ時給が発生するのは変わらないのですが、想定の実働10時間を考慮すると、従業員側から見る実質的な時給は9000円を10時間で割った、900円と捉えてもよいでしょう。
休憩時間を観察してみても、休憩時間を持て余している様子が多く見られます。ぼーっとしたり、携帯をいじったり。多くの人が休憩時間を生産的に活かせればよいでしょうが、休憩のスペースさえ確保できていないお店が多く、なかなかそうはいきません。
計算して時給がどうこういう以前に、拘束時間が変わらずに得られる賃金が減るわけですから、不満がでるのが自然でしょう。後述しますが、この見込みとの差違に相まって、従業員のモチベーションの低下を招いています。
早上がりが見込み給料との差違を生む
「今日は暇だからもうあがっていいよ。」
「あとは俺がやっとくから、もうあがって。」
こんな風に、シフトに定められた時間よりも早くに帰される「早上がり」が横行しています。早く帰れるのが嬉しい方もいますが、多くのアルバイト従事者は「わーい、早く帰れる!」とはなかなかなりません。なぜならアルバイトは時給で働いており、早く帰れるということはその分の時給が発生しないことを意味します。
極端な例ですが、時給1000円で30分の早上がりが20日続くと、本来見込んでいた給料との差違が10000円にものぼってしまいます。
アルバイト従事者、特にアルバイトで生計を立てているフリーターは、月々の給料がどれくらいかを見込んでシフトの希望を出していることが多いので、早上がりは見込み給料との差違を生んでしまいます。
この差違による「思ったより稼げない」という心持ちが、不信感や定着に影響してきます。アルバイトで生活をしているわけですから、前述の休憩時間・休憩回数の加増と早上がりによる見込み給料との差違が大きくなると、掛け持ちを始めたり、別のアルバイトに移ってしまうことは避けられません。
掛け持ちにしても、余計にシフトの融通がきかなくなるので、いずれにせよ辞めることが視野に入ってきます。
残念ながら早上がりを禁止する規定もありません。使用者采配によるものですが、平均賃金の6割を越えていれば補償の義務もないようです。
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
真っ当な人件費の最適化を
件の飲食店数店舗では、上記のような休憩時間・休憩回数の加増や早上がりが横行していました。店の都合によっていいように使われているという意識と、拘束時間や見込み給料との差違による不満や不信感によって、従業員の結束や士気が失われていました。このような目先の人件費削減をしてしまうと、何かをやろうという時に、不信感や傀儡感から従業員がついてきてくれなくなります。
全員の士気が揃わなければ、売上をあげる策に取り組みづらくなります。定着が遠のけばパフォーマンスやサービスも下がりますし、採用に関するコストも増えます。こうなれば、流行りやメディアによる取り上げなどによる外的要因以外での、長期的な売上の増加は難しくなります。
人件費の削減自体は、利益を追求するにあたって必須です。いや削減ではなく、最適化というべきでしょう。4人では暇な時があるから休憩や早上がりで調整するのではなく、3人でパフォーマンスが発揮できるようにやり方やシステムを見直す取り組みをするべきです。
人の力だけでなく、流れやシステムなど人以外の要因の改善も、人件費を考える上で考慮すべきでしょう。こうすることでひとりひとりの士気と結束も強くなります。単純な数字の増減だけを考え、従業員の立場に立って不満はないのかという視点を失っている経営者・管理者は多いのではないでしょうか。
「うちは大丈夫」。そう思ったのなら要注意です。調査もせずそう思ってしまったのなら、危ういと思います。
以上、人件費を理由にアルバイトの休憩時間を増やしたり、早上がりを強制すべきではないという旨を記しました。人手不足に陥る一要因でもありますね。
もしそういうバイト先なら、さっさと新しいところを見つけるのをおすすめします。経営体制の問題なので、多くの場合アルバイト側が話したところでどうもなりません。