食中毒の基礎知識と種類、それぞれの特徴や予防について~つくりおきへの注意喚起も~



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この1週間、食中毒の話題に事欠きません。乳児ボツリヌス症で全国初の死亡例が確認されたのをはじめ、クックパッドに掲載されていた豚肉の生食や、一晩寝かせたカレーによるウェルシュ菌の食中毒・・・。


このような話題で盛り上がる今、食中毒が増加する夏に向けて、家庭でも食中毒の知識と予防法を知っておきたいところです。なので僕の有している知識と、実践している食中毒対策について、思いつくかぎりではありますが記そうと思います。


そこそこ長くなるので、時間はないけど総括だけ見たい!という方は目次より飛んでくだいね。あとつくりおきをしている人への注意喚起もあるので、ぜひご覧ください。


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食中毒の基礎知識


食中毒は有害な病原微生物または微生物による毒素や化学物質が原因で起こります。食中毒の原因が体内に入ってからは潜伏期間があり、種類によって短いものから長いものまで多様です。食中毒が発生しやすい時期は高温多湿になる夏を中心に6~9月です。


2014年の統計によると食中毒の発生件数は、1.飲食店、2.家庭、3.旅館の順に多くなっています。患者数だと家庭が仕出し屋に置き換わります。


詳しくは次の項目で触れますが、食中毒には細菌性とウイルス性があり(他にも自然毒や化学性のものあります)、細菌性食中毒が比較的多く起こっています。原因食品はやはり魚介類・肉類などナマモノが多く、今回のようにその加工品など多様な食品で起こっています。見た目やにおい、味に変化がない場合もあり、見ただけでは分かりづらいのがやっかいな点です。


食中毒の種類


食中毒には細菌性やウイルス性などの種類があります。それぞれの区分での特徴をざっくりと記します。個々については次項で述べます。


細菌性食中毒


細菌性の中でも区分があり、その特性から潜伏期間に差がでます。


感染型


食品に増殖した細菌を口にして、その細菌が体内でも増殖して腸管に作用して起こるのが感染型の食中毒です。感染型に該当するのはカンピロバクター・サルモネラ菌・腸炎ビブリオ・病原大腸菌などです。よくニュースなどで見るO157も腸管出血性大腸菌感染症といって、病原大腸菌の一種です。


毒素型


細菌によってつくられた毒素によって起こるのが毒素型の食中毒です。直に毒素を体内に摂取するため、潜伏期間が感染型に比べて短いのが特徴です。ボツリヌス菌・黄色ブドウ球菌などが該当します。


生体内毒素型


感染型・毒素型の両方の特徴を有するのが生体内毒素型です。腸管出血性などの病原大腸菌や、ウェルシュ菌・セレウス菌が該当します。ウェルシュ菌・セレウス菌は芽胞を作り、熱に強いことから、特段意識的に対策する必要があります。


ウイルス性食中毒


ウイルスによる食中毒は、ロタウイルス・アデノウイルスなどがありますが、ほとんどがノロウイルスによるものです。二枚貝や二次感染が主な原因で、腸管内で増殖します。上記の幼児に食べさせるときに注意すべき食品に、二枚貝も追加しておいてください。


自然毒食中毒・化学性食中毒


自然毒食中毒は、毒を持つ動物や植物が原因で、ふぐや毒キノコなどですね。あとはじゃがいもの芽や緑になった部分に含まれるソラニンも有毒なので要注意です。


化学性食中毒は一般的に毒物とされる化学物質が原因で、自然界で自分たちが口にするものだと、魚や肉が腐敗する際にヒスチジンが病原菌によってヒスタミンに変化することによって起こるアレルギー様食中毒に注意です。


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それぞれの特徴と予防


前項で述べた種類のうち、個々に関してその特徴と予防法を記します。


ノロウイルス


牡蠣やはまぐりなど、汚染された二枚貝を食べることで感染します。また感染者の吐物に触れるなどして、その手指で食品をさわることによる二次感染の危険性もあるので、飲食店は吐物を適切に処理し、その後の手洗いと塩素消毒を徹底しなければなりません。潜伏期間は1~3日で、風邪に似た症状がでます。


熱に弱いため、85~90℃で90秒以上の加熱を心がけてください。また感染者の吐物などに触れてしまった場合はすぐによく手を洗い、次亜塩素酸ナトリウム溶液などで塩素消毒を行ってください。またその手で触った器具や、もっというと手洗いのレバーなどの消毒も徹底してください。


また感染者が用を足した後、手洗いが不十分なまま料理をすると、食品がウイルスに汚染されますので、調理に携わる人々が知識と衛生観念を持つことが望まれます。


カンピロバクター


肉のうち、主に鶏肉が原因です。病因物質別食中毒の発生件数で、一番多く報告されているのがカンピロバクターです。潜伏期間は1週間以内と長めで、頭痛や腹痛、高熱などの症状がでます。熱に弱いので十分加熱することによって予防できます。飲食店であっても鶏肉のたたきなど、生で食べる場合はある程度覚悟を持って食べる必要があります。衛生管理が厳密に出来ていない飲食店も多く、基本的に食べないことをおすすめします。料理自体が適切に処理されていても、鶏肉のドリップや解凍時の水など、カンピロバクターで汚染された水も感染源になるので、安心はできません。


関連記事:飲食店と本末転倒な衛生検査 - 生かし屋さん。


サルモネラ菌


サルモネラ菌の食中毒はによるものが多く、生卵を扱った後の手洗いなどを徹底することで防げます。またネズミやゴキブリなども媒介しますので、身の回りを清潔に保っておくことが必要です。上記の様に対策がしやすいので、徹底するとまずあたることはありません。潜伏期間は一般的に1日程度で、急な高熱などの症状がでます。熱に弱いので加熱調理によって予防できます。卵を生で食べようと思って殻を割った際に、殻を落としてがっつり生卵に触れた場合などは、保険をかけて加熱調理に切り替えたほうが万全だと言えるでしょう。


腸炎ビブリオ


海水に存在する細菌で、海水にすむ魚などが原因で感染します。潜伏期間は半日程度と短く、上腹部に痛みがはしるなどの症状がでます。塩分がないと生存できないため、流水でよく洗ったり、また加熱や酸にも弱いので、一般的な調理をすれば予防できます。また低温にも弱いので、一度冷凍されていれば腸炎ビブリオに関しては安全です。調理によって簡単に予防できますが、注意すべきは魚を切った包丁やまな板による二次感染で、普段から肉や魚と野菜でまな板を分けるなど工夫しておくと、他の食中毒も同時に防げます。


病原性大腸菌


大腸菌の中でも病原性のあるものが原因で、家畜などの糞便やこれに汚染された食品から感染します。O157など腸管出血性大腸菌の食中毒はわずかな菌で発症するうえに潜伏期間が長く、合併症を引き起こす可能性もあります。熱に弱いので十分に加熱することで予防できます。特にひき肉を使った料理は中心まで十分に加熱することを留意してください。2016年11月に起きた冷凍メンチカツでの食中毒もO157によるもので、中心まで十分に加熱されていなかったことが原因で起こっています。


O157については75℃で1分の加熱で死滅します。揚げ物をする際に高い温度で調理を行ってしまうと、中心まで火が入る前に衣が色づいてしまうので、適した温度で揚げ物をするよう、ご注意ください。


ウェルシュ菌


冒頭の記事にあったように、カレーやシチューなど大量調理された食べ物を食べたことが原因になることが多く見られます。潜伏期間は半日ほどで、下痢や腹痛の症状がでます。動物の腸管、土壌、塵埃、下水、食品など自然界に広く分布しています。


芽胞を作り、食中毒の原因となる種類のウェルシュ菌は熱に滅法強いのが特徴です。芽胞とは細胞構造の一種で、増殖に適していない環境になると菌体内に形成して、加熱などに強い抵抗性を持ちます。増殖に適した環境になると栄養細胞となって再び増殖をはじめます。この熱に強い性質のせいで、加熱調理で殺菌することができません。加えてウェルシュ菌は偏性嫌気性菌なので、酸素がないか微量なときに増殖します。加熱すると食品内の空気は追い出されるので、温度も上がってよりウェルシュ菌にとっては増殖に適した環境になってしまいます。空気に触れるようによくかき混ぜてあげることもできる予防法のひとつです。


大量調理した鍋などを常温で放置してしまうと、緩慢に冷却されてウェルシュ菌が増殖しはじめる55℃から、至適温度の43~45℃の状態がより長く続いてしまうため、今回のような食中毒が起こります。


予防法は、調理後すぐに食べてしまうか、保存する場合は小分けにして急冷し、10℃以下で保存することです。また保存してから食べる場合は、十分に再加熱し、発芽細菌の殺菌、エンテロトキシン(毒素)の不活性化を促します。原因施設は大量調理を行う飲食店や旅館が多いですが、ご家庭でも常温で放置などは危険ですので、シンクに水を張って氷を入れて急冷し、再加熱する際もレンジで温かいくらいに加熱するのではなく、鍋で十分に加熱することで予防できます。


セレウス菌


ウェルシュ菌と同様に熱に強い芽胞を作り、土壌、塵埃、下水等の自然界に広く分布しています。セレウス菌の食中毒には下痢型と嘔吐型があり、下痢型の潜伏期間は半日ほどですが、嘔吐型の潜伏期間は30分~数時間程度と短いのが特徴です。食中毒の原因となるのは米飯やめん類で、ウェルシュ菌と同様に大量の米飯やめん類を調理して常温で放置した際などに起こります。


予防法はウェルシュ菌と同様です。


黄色ブドウ球菌


鼻粘膜や化膿した傷の中に多く存在し、人の手指を介して食品に広がり、食中毒が起こります。潜伏期間は1~数時間と短く、激しい嘔吐や腹痛などの症状がでます。発熱がほぼないのも特徴です。ウェルシュ菌と同様にエンテロトキシンという毒素をつくりますが、ウェルシュ菌とは違い黄色ブドウ球菌の毒素は熱に強く、加熱しても無毒化されません。または酸やアルカリにも強いため、傷がある手で料理をしないことが一番の予防になります。


ボツリヌス菌


ウェルシュ菌・セレウス菌と同様に土壌など自然界に広く分布し、芽胞を作ります。潜伏期間は平均で半日弱~36時間ほどで、視力障害、言語障害、神経麻痺などの症状がでて、呼吸困難で死亡する場合もあり、最も致命率が高い食中毒です。ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌のため、ビン詰、 缶詰、容器包装詰め食品など密封されている食品で食中毒の危険性があります。自家製の保存食は処理が不十分なことも多く、食中毒になりやすいので注意が必要です。


予防法は、毒素が比較的熱に弱いため、十分に加熱することと、密封された保存性の良い食品でも、容器が膨張していたり、異臭がする場合は絶対に食べないことです。


またボツリヌス症には今回話題になった乳児ボツリヌス症があり、1歳未満の乳児には蜂蜜を食べさせないでください。他の食品での事例はほぼありませんが、自家製野菜スープが感染源と推定された例もあります。お子さんに与える食事の衛生管理は、大人より徹底するように注意が必要です。


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予防法の総括


これまで個々の食中毒に対して特徴と予防法を羅列してきましたが、総括としてどのような意識をもって予防すればいいのか、まとめようと思います。


保存方法の確認・急冷の徹底


食中毒の原因となる細菌やウイルスをはじめとする病原微生物は、水分・適度な温度・栄養素の3つの条件が満たされると増殖します。満たされなくても菌によっては生存可能で、3つが満たされた状態になると再び増殖します。温度に関して、細菌には増殖に適した温度、至適温度があり、低温菌が20~30℃、中温菌が30~40℃、高温菌が55~60℃です。ほとんどの細菌は中温菌なので、いかにしてこの範囲の温度外に料理の温度を持っていくかが重要です。ウェルシュ菌の項目で述べたように、大量調理した場合は小分けにして早く冷えるようにし、シンクに水を張って氷を入れるなどして急冷し、速やかに10℃以下で保存することが重要です。急冷する際、水が入ってしまうと細菌の増殖を促してしまうので、水はねなどには注意してください。


温度が高いまま密封して冷蔵庫に入れると、、庫内の温度が上がって冷蔵庫全体の保存性が悪くなるだけでなく、蓋に水滴がついてそれが食品に落ちることで保存性が損なわれます。水は保存の敵です。すぐに食べないものは水と合わせる前の段階で保存するなど、工夫すると保存性が高まります。また例えば煮物や自家製のつゆなどを別の容器に移して保存する場合、水洗いしてから入れてしまうと、水が入ってしまい保存性が悪くなります。なのでその煮物のだしやつゆを少量取り、それ自体で保存容器を洗うことで保存性を高めることができます。これを地洗いといい、日本料理の技法です。


冷ます以外の保存法として、逆に高温を保つのも手です。煮詰まったり食品の形に影響するので長期間の保存法としては現実味がないですが、すこしの間置いておく場合には、60℃以上に保温してあげると安全です。また再加熱する場合も、適切に保存された食品ならレンジで加熱してもさほど差し支えはないですが、鍋で十分に加熱したほうが安全性は上がります。大量調理したカレーやシチューなどはしっかりと再加熱を行ってください。


また、見た目やにおい、味に変化がない場合でも食中毒の原因となる細菌やウイルスに汚染されている可能性はありますので、うっかり常温で置いてしまったもので、味やにおいをチェックして大丈夫でも、捨てる勇気を持つことが必要です。特に高温多湿になる夏場は、細菌の増殖にぴったりな環境ですので、もったいないですが迷わず廃棄しましょう。


食品毎に適した保存方法の確認も徹底したほうがいいでしょう。食品のラベルなどを確認することで、知識不足による過失も避けることができます。例えばほとんどの蜂蜜のパッケージには「1才未満に与えないでください」などと注意書きが書いてあります。確認しておけば、防げる事故でした。


調理時の注意点・ワンポイント


細菌の多くは熱に弱く、十分に加熱調理することでほとんどの食中毒が予防できます。


よく「肉は表面だけ焼けば大丈夫」などと言われますが、細菌にもよりますし寄生虫の問題もありますし、家庭では中心までよく火を通すことをおすすめします。ひき肉を使った料理、ミンチカツやハンバーグなどは、中心といってもミンチにされた肉の表面なので、中まで十分に火を通す必要があります。中心まで火を通すには、適切な温度で加熱することが重要です。


高い温度で調理してしまうと、中まで火が入る前に表面が焦げてしまいます。衣が美味しそうなきつね色になっても、中まで十分に加熱されていなくて食中毒になるケースが多々見受けられます。メンチカツなどはこねて他の材料と肉が混ざるため、見た目では火が入っているかどうかわかりにくい場合があるのも厄介な点です。揚げ物に限らず、オーブン調理などにも重宝しますから、温度計を持っておくことをおすすめします。



上は僕の使っている温度計です。記事でも度々登場していると思います。僕をはじめ、レシピ開発をされる方は料理の良し悪しはもちろん、そのレシピが安全性に足るものかを確認せねばなりません。フォンダンショコラの生焼けがしばしば話題になりますが、これはガナッシュの有無ではなく、加熱後に予想される生地の状態と異なる状態になるレシピにも関わらず、中心温度の確認を怠っているのが問題なのです。クックパッドがどうこうというのはまた別記事にでも書こうと思いますが、レシピを作る方はご注意ください。


加熱による殺菌を万全にするために、その他二次感染を避けるべく、適切な衛生観念を持つことも必要です。手洗い消毒はもちろんのこと、具体的には肉や魚と野菜で包丁やまな板を分けたり、器具を清潔な状態にしておいたり、お皿や箸なども清潔に殺菌されたものを使うように心がけてください。


保存の際は前述の通り、素早く低温まで下げて保つほか、できるだけ水分を少なくすることと、塩分濃度を上げたり酢を使うなど、保存性を高める調理法を採用するのもポイントです。薄味で作ったけれど、保存に際して塩を足してあげたり、材料過多だから酢を使ってマリネや酢漬けにしようなど、保存を考えた味付けをしてあげると有効です。


つくりおきへの注意喚起


近年「つくりおき」の人気が高まり、毎日料理をしなくてもいいことから、主婦をはじめ多くの方が手を出しているかと思います。つくりおきといっても、要は調理後の食品を保存するわけですから、普段の料理より一層、食中毒への注意が必要です。

  1. 十分に加熱する
  2. 水分ができるだけ少なくなるように調理する
  3. 茹で調理などの後はしっかり水気を切る
  4. 塩分を高めにする、酢を使う、オイルを使うなど菌が増殖しづらい調理方法を採る
  5. 容器は消毒して清潔にし、水分がついた状態では決して使わない
  6. いつ作ったか分かるようにノートに書いたりラベルを貼ったりする
  7. 小分けにして急冷する
  8. よく冷めてから冷蔵庫にしまう
  9. 取り分ける際は清潔な箸を使う(水気がついている箸はNG)
  10. カレーをはじめ汁物はしっかり再加熱する


今思いつくかぎりですが、以上の点をチェックし、十分衛生管理した上でつくりおきしてください。品数が少ないならともかく、がっつりつくりおきする場合はにはかなり気を配って保存することをおすすめします。


さいごに


食中毒をはじめこの手の注意喚起は、「人の目に留まってなんぼ」です。知っているのと知らないのとでは雲泥の差があります。ことによっては大事に至りますし、折に触れて話題にする必要があると思います。ボツリヌス症など、中でも命にかかわるものはもっと学校で教えるべきだと思います。より多くの人が、食中毒についてもっと知識と関心を持って調理に携わることを願っています。


何かわからないことや質問、不足していること、間違っている情報があれば追記・修正しますので、お知らせください。